アヴェスターにはこう書いている?
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芝田英昭 『国保はどこへ向かうのか 再生の道をさぐる』

 さらに厳しのは、納付期限から一年が過ぎると保険証を返還しなければならないことである。その代わりに「被保険者資格証明書」が交付されるが、これは単に国保の被保険者であることを証明する書類であり、保険証のように受診券の役割は果たさない。従って、国保が保障する「療養の給付」は受けられず、正規の保険証や短期保険証で医療機関を受診した際は一から三割の窓口負担ですんだのが、資格証明書の場合はいったん全額(10割)を自己負担しなければならなくなる。
 これについて国保法第36条は、「市町村及び組合は、被保険者の疾病及び負傷に関しては、次の各号に掲げる療養の給付を行うただし、当該被保険者の属する世帯の世帯主又は組合員が当該被保険者に係る被保険者資格証明書の交付を受けている間は、この限りでない。」(傍線筆者)として、「1、診察 2、薬剤又は治療材料の支給 3、処置、手術その他の治療 4、居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護 5、病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護」といった医療の「現物給付」の対象から国保資格証明書世帯を除外している。そして、国保法第54条の3にある「特別療養費」という規定により、国保資格証明書世帯は窓口ではいったん医療費の全額を負担するが、その後、保険者(市町村)に申請して7割分を国保特別会計から還付される仕組みになっている。しかし、国保資格証明書世帯は、それまでの保険料の滞納・未納分の額が還付額から差し引かれるため、現実には窓口で支払った費用が返戻されることはない。(p.24-25)


資格証明書についての説明。10割負担でも申請すれば7割分が戻ってくるとは言われるが、そもそも資格証明書の交付は一年以上の滞納が前提となっているため、7割分の給付のかなりの部分は保険料の滞納分の支払いに充当されてしまうということか。なるほど。使う側にとって資格証明書があまり意味のないものであると言われる理由がよくわかる。



この一部負担金に関しても、国保法は「特別の理由」がある人に対する減免・徴収猶予規定(第44条)を設けているが、埼玉県下44自治体のうち、条例等で一部負担金の減免・徴収猶予となる「特別の理由」を規定しているのは25自治体(表1-13)。また、国保パンフレット等を通じて適宜広報をしているのは僅か14自治体のみであった。
 実際に一部負担金の減免・徴収猶予を認めたのは、埼玉県下では2008年度において9自治体のみであった。一部負担金の減免・徴収猶予を認めないことは、結果的には医療機関における「未収金問題」に発展してきている。(p.60)


国保という制度について思うのは、法体系が分かりにくいというか、中央政府が一律に基準を設けず、自治体単位で保険者となって各自治体がそれぞれ条例を作成して事務を執行しているために、法に規定があっても、条例で空文化されてしまったり、条例で定めることを予想しているせいか、法律自体の規定が不完全だったりしている、ということだ。一部負担金の減免に関する各自治体の扱いの差は、その典型例の一つと思われる。

なお、国保に対する批判としては、保険料が高いということが挙げられるが、こうした減免制度を拡充することは、その高い保険料をさらに高くする可能性があるという点は指摘しておきたい。この減免による国保会計からの支出については、保険原理と社会原理(『長友先生、国保って何ですか』を参照)という原理で言えば、社会原理に基づいて行われるべきものだから、原則として保険料ではなく、中央政府の税によって補填されるべきものだろう。実際の制度上はどのような負担になっているのだろうか?(条例や要綱などのレベルで定められるようだが。)



 一部負担金の減免・徴収猶予に係わる「特別の理由」は、25自治体はほぼ同じ内容であった。……(中略)……。
 これに見るように、全て「生活の困窮」要因が、自然災害や失業等を理由としたものでなければならず、それ以外の「低所得」については、一部負担金の減免・徴収猶予の事由としては最初から想定されていない。しかし、理由は何であれ「低所得」であるがゆえに、一部負担金の支払いが困難となるのは当然である。
 ……(中略)……。全国の保険者も当然一部負担金の減免・徴収猶予を条例などで規定しているが、その事由に理由を問わない「低所得」を規定している自治体は僅かである。厚労省の2006年度調査では、保険者1804自治体のうち、一部負担金の減免・徴収猶予規定を有する自治体は1003自治体(55.6%)、また理由を問わない「低所得」をその事由としているのは155自治体(8.6%)、そのうち具体的な低所得の判定基準を定めているのは僅か111自治体で、保険者総数の6.2%のみであった(前掲、「医療機関の未収金問題に関する検討会報告書」11ページ)。(p.62-63)


条例で定める条件が同じになっているということは、恐らく県か厚労省が見本を提示していると見るべきだろう。それにしても、法律(国保法)で規定があるのに条例で十分な規定を設けていない自治体が多いことに驚く。

単なる低所得というだけでは一部負担金の減免は受けられず、災害や失業などによる所得の減少でなければならないという制度には、多少の矛盾があると思われる。生活保護基準より若干上回るが、医療費が普通より多くかかるという世帯は減免を受けられず、それよりも所得が多い世帯が一時的に所得減少した場合は受けられるということになるからである。ただ、そもそも低所得である世帯が減免を受けられるとすれば、この減免制度自体が恒久的な減免を想定しなければならないが、基本的にはそうなっていない(恐らく多くの自治体で減免の期間は一時的なものとして限定されていると思われる)。



 北海道芦別市では、国保税(芦別市は地方税として徴収している)等の滞納者に対して全国でも類を見ない制裁措置を科している。「芦別市市税等の特定の滞納者に対する特別措置に関する条例」(2009年3月23日改正)では、「第四条、前条に規定する手続き(催告等・引用者注)を行っても、なお、市税等が滞納となっている場合において、市長は、当該滞納となっている市税等の徴収の促進に必要があると認めるときは、市税等を滞納している者を特定の滞納者と認め、当該特定の滞納者に対して、他の法令、条例又は規則の定めに基づき行うものを除くほか、別表に掲げる許認可、補助金の交付、福祉サービスの提供等(以下「行政サービス」という。)の取消し、停止、申請の拒否等の措置を行うものとする」として、行政サービスの制限(表1-17)がなされる。
 しかし、これらの行政サービス制限には、「給食サービス」、「入浴サービス」、「介護手当支給」、「老人福祉共同住宅の入居」、「慢性じん炎血液透析」、「遺児年金」、「市営住宅の入居」等が含まれ、明らかに「生存権の侵害」であり看過できないし、即刻中止すべきである。
 また、同市同条例第四条第2項で「市長は、必要があると認めるときは、前項の行政サービスの停止等の措置とあわせて特定の滞納者の氏名、住所、生年月日及び滞納額を公表することができる」(傍線筆者)としている。さらに、氏名等の公表は、同市同条例第21条において「特定の滞納者の氏名等の公表は、芦別市広報誌発行規則第二条に規定する広報あしべつに掲載することにより行うものとする」(傍線筆者)としていることからも、明らかに「個人情報保護法違反」であり、このような規定が条例化されていることに驚かされる。(p.68-70)


確かにすごい条例だ。ここまで徹底していると「効果」がどのような形で出ているのか気になる。特定滞納者が年間何人くらい指定されており、行政サービスはどの程度停止されているのか?そうした制裁によって滞納の解消につながる効果が出ているのか?

氏名などのほか滞納額も広報に掲載されるというのは、北海道の小さな町であれば、町中に知れ渡ることになるわけで、当局側としては納付交渉の際に、ある程度の牽制手段として使うことが出来そうである。そうした脅しで交渉がうまくいくのかは気になるところではある。

このような人権への配慮を欠く条例が制定されていることには驚かされるが、この条例の発想は新自由主義的な発想からも出て来ることがありうるが(かつての私なら専らこちらの考え方からこの条例の意味を捉えていただろう)、同時に共同体の連帯を重視する発想からも出てくることがありうるという点に気づいた。すなわち、税を料金として捉え、税の支払いと行政サービスの享受をワンセットとして捉える私経済的な発想の中に税と行政サービスを組み込む考え方と、共同体の連帯を脅かす存在として特定滞納者を位置づけ、共同体の構成員としての責務を果たさないことに対して否定的なフィードバックを返していくという考え方である。



 国保は制度上、被用者保険を離脱した時点で加入しなければならない。保険料は以前の所得などから算出されるが、離脱から加入までにブランクがあるとその分の保険料が「滞納」とみなされ、清算しない限り正規の保険証がもらえない。(p.80)


加入手続きをすぐに行わない場合でも、被用者保険等を離脱した時点まで遡って保険料がかかるのは国保の制度上決まっていると思うが、正規の保険証がもらえないかどうかは自治体によって運用が異なるのではないだろうか。厳密に考えると、ここで書かれている考え方の方が一貫性はあるが、自治体によってはそうした運用はしておらず、手続きを怠っていた者であっても一旦は正規の保険証が交付される。



 そうした無保険者が全国にどのくらいいるのだろうか。厚生労働省の見解はこうだ。
 「ホームレスの方とか、無保険者は発生しているのでしょうが、普通に生計を維持している人は保険に入っているというのが前提です。無保険の方は少ないのではないでしょうか。保険局としては積極的に数は集めていません、把握できるなら市町村ですね」
 しかし、高知市は「国保加入者の数字しか分からない」、高知県も「市町村すべてのデータを集めたら分かるかもしれないが、現実には不可能」という返答。被用者保険を扱う社会保険事務局も「うちは政府管掌保険の加入者についてしか分からない」。つまり、保険の枠組みから抜け落ちた人の数を、どの機関も把握していないのだ。(p.82)


貧困の実態把握という点から見て、重要な問題提起を含んでいると思う。

住民基本台帳の情報を持っている市町村と協会けんぽ、健保組合(さらには共済組合や国保組合)が情報共有できれば(より正確には市町村に被用者保険等の保険者が離脱・加入の状況を逐次報告するようにすれば)概ね実態を把握できるだろう。そして、このデータは被用者保険が外れた人を市町村が把握できるということをも意味する。このようなデータが把握できれば、国保の加入手続きも自動的に行うことができ(これは事実上の強制加入でもあるが)、無保険者の存在という問題はかなりの程度解消されると思われる。



 同時に調査された、う蝕有病者率の「較差」に関連する要因の分析によると、所得と学歴に高い関連が見られたとのことだった(図3-2)。これは、所得や学歴が高い地域においてはむし歯が少ない傾向にあり、逆に所得が低く学歴も低い地域ではむし歯が多いということである。一方で、歯科関連指標でむし歯と関連していたのは「フッ化物塗布」のみで、その寄与率は1%に満たなかった。それ以外の「歯科医院の数」「歯科保健指導受診回数」などは寄与していないという結果となった。つまり、地域の社会経済状態がむし歯をつくりやすいかどうかに大きく影響されるということで、これはWHOのいう「the Solid fact(社会的決定要因)」そのものであり、個々人の努力では解決できない要因がそこにあることが示された。
 これらのことからすると、子どもの深刻なむし歯について、一家庭の、あるいは一個人の問題としてとらえてしまうのは、あまりにも狭い見方ではないだろうか。(p.128-129)


興味深い。歯科は医科よりも経済的および時間的に余裕がないと受診できないし、むし歯がすぐに生命の危険に直結するわけでもないため、そうした余裕がないと受診する動機も生まれにくい。だからこそ、社会的な要因の影響をより明確に反映する、ということか。



 確かに、消費税を社会保障目的税(あるいは福祉目的税)に転換を求める声は、財界を中心として絶え間なく浮上しているが、これには、社会保障の枠組みを変える重大な問題が潜んでいることを理解すべきである。
 第一に、高齢社会の下で社会保障給付の増大は避けられないが、それを理由に安易に税率が上げられる可能性がある。また、第二に、国民の税率アップへの拒否反応を利用して税収の中だけに社会保障を抑え、サービスの量的・質的水準を低下させる可能性がある。第三に、消費税は、実質的には企業負担のまったく無い税であることから(中小零細企業は、転嫁できないので負担している)、社会保障目的税にすることで、社会保障における企業負担の軽減につながる。……(中略)……。
 確かに、消費税率だけを見ると欧米諸国よりかなり低率のように感じられるが、国の税収に占める消費税収の割合を見ると、すでに欧米並になっている。ちなみに2002年度で、国の税収に占める消費税収の割合は、日本21.8%(税率5%)、イギリス22.3%(同17.5%)、イタリア22.3%(同20.0%)、スウェーデン22.1%(同.25%)、である。(p.186-187)


消費税を社会保障目的税とすべきだという意見に対する批判。税率が上がる可能性と税収の範囲内にサービスが抑制される可能性は、一見すると正反対の動きだが、これらは両立可能である。すなわち、多額の社会保障費を要するので、それに必要な税収を確保するという名目で税率が上げられ、多額の社会保障費を要するという理由で給付に様々な制限をかけていくという動きも同時並行して進めることができるからである。そして、実際にこの動きはどちらも進んでいる。2014年の消費税率の引き上げ(5%→8%)と、介護保険の給付引き下げなどを含む「地域医療・介護推進法」がつい先日(6月18日)成立したことを見てもそれはわかるだろう。

社会保障における企業負担の軽減につながるというのは、「社会原理」が薄くなるという指摘なのだろう。ただ、考えようによっては、企業に社会保障負担を求めるより、法人税の課税を強化することで課税し、個人所得課税も強化して租税で社会保障を賄う方がよいという考え方もありうるかも知れない。ただ、制度というのはあまり急激かつ抜本的に変えてしまうとうまく機能しないことが多いことから考えると(後藤新平の「生物学の原理」を想起している)、企業に負担を求めることをあまり急に変えることは適切ではないようにも思う。このあたりは現在の私にとっては迷いがあるところである。

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