アヴェスターにはこう書いている?
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山岡淳一郎 『国民皆保険が危ない』(その1)

 医療ツーリズムの他にも「医療の国際化」を進めようとする圧力は高まっている。「TPP(Trans-Pacific Partnership環太平洋経済連携協定)」への参加は、その典型だ。農業だけでなく医療分野でも「自由化」を急速に推し進め、国民皆保険体制を崩す危険がある。TPPのような自由貿易協定は、一度結べば後戻りがきかない。(p.23)


「自由化」してしまうと後戻りができないという認識は重要。慎重な議論が求められる所以。



 では、なぜ、自治体は一般会計繰入金を国保に投入しなければならないのか。もともと国保には事業者の保険料負担がなく、国の税金による補てん(国庫支出)が財政上の支えだった。1970~80年代初頭までは国庫支出が国保収入の60%ちかくを占めていた。それが80年代前半の中曽根政権下の「小さな政府」路線への転換で、一気に下降線をたどっていく。08年度には25%を切った。そのために加入者の保険料負担はうなぎのぼりで上がり、自治体の負担も増した(図「国庫支出金の変化と保険料負担」)。
 市町村国保の財政の悪化は、国庫支出の減額が直接的な引き金になったといえるだろう。(p.90)


この点はどの国保解説書でも指摘される点である。中央政府が財政責任を放棄したため、自治体の一般会計の負担(繰入金)と被保険者の保険料負担とが重くなっている。



大阪市は国保事業会計の累積赤字が364億円(08年度)に膨らむ前に毎年、繰入額をほんの少しずつ増やしておけばこうはならなかった。国保事業は、全国一律ではなく、自治体の裁量、地方の行政と議会の方針で決まる部分が大きいのです(p.92)


自治体の裁量が影響を及ぼすことは間違いないが、国庫支出金の削減によって全国の国保事業が苦しくなり保険料負担も全体として上がってきたということを踏まえると、あまりこれを過大評価しすぎることも問題である。中央政府の統制の方がベースにあり、自治体の裁量によってそのショックを多少緩和できることもあれば、かじ取りに失敗するとそのダメージをより深くしてしまうことがあるという程度、というのが妥当なところではなかろうか。



 詳しくは第五章の「医療の『公平さ』と『先進性』をどう両立するか」で論じるが、自治体レベルで財政的に苦しい国保を都道府県単位に広域化したところで、必ずしも財政は安定しない。小さな自治体で国保を運営するから赤字で、広域化して大きくすれば黒字になる、というわけではない。
 たとえば、大阪市は人口266万人、日本で二番目に大きな政令都市だ。実態は広域国保といえるのだが、これまで述べてきたように国保財政は危機に瀕し、一般会計繰入金を172億円も使っていながら、364億円の累積赤字を抱えている。
 かたや同じ大阪府でも、貝塚市、茨木市、羽曳野市、島本町などは黒字を保っている。規模の大小と制度の安定性は必ずしも一致しない。
 それに広域化で、これまで自治体が続けてきた一般会計繰入金はどうなるのか、厚労省は何の指針も示していない。(p.93)


規模が大きくなると財政が安定するかのような錯覚を抱きがちだが、それは誤りである。



 究極の貿易自由化ともいえるTPPは、第一次産業だけにダメージを与えるのではない。太平洋を超えて、医療分野にもどっとヒト、モノ、カネが流れ込む、あるいは流出するようになれば医療の土台である皆保険はどうなるか。自由化は、どんな変化を生じさせるのか。
 おそらく、私たちが守ってきた皆保険には「私益」の亀裂が走り、膨張する医療市場の圧力に耐えかねて土台はこなごなに砕け散ってしまうだろう。公的な土台が壊れれば健康保険が適用されない「自由診療」が増える。
 自由診療の値段は、医療提供側の思うままに決められる。一般に商品やサービスの値段は「需要と供給」で決まるといわれている。ただ医療の場合、供給側は専門性にすぐれ、たくさんの情報を持っているのに対して消費者側の情報は限られている。
 これを「情報の非対称性」という。そうした状態では対等の立場でのサービスの選択や意思決定は困難だ。
 たとえば「神の手」と呼ばれるドクターにかかって「自由診療での手術代は一億円」と言われたら、医療知識のない患者が反論できるだろうか。言い値で治療方法や医薬品の値段は決まり、お金の切れ目が命の切れ目。所得による医療格差はとめどもなく開き、殺伐たる光景が展開されるだろう。患者は医学的効果が不確かな自由診療に多額の費用を払うことになりかねない。

自由化の影響は「わからない」!?

 TPPへの参加は、そのような自由化への扉を押し開く行為なのだ。
 TPPに加われば、まず「混合診療の拡大」という形で自由診療枠が増大すると予想される。そして「米国系企業の権益増強」「病院の株式会社化」、さらには「医師、看護師や患者の国際移動」といった現象を通して、医療格差が拡がっていくと考えられる。(p.107-108)


自由診療では医療の供給側が言い値で値段を決められる。ここにポイントがあることを理解できたのは本書からの収穫だった。これによって医療機関側が利益追求に走ることができるようになり、アメリカの企業が参入する余地ができることになる。現状ではアメリカの企業が日本で医療機関を開設しようとしても、価格が管理されているため儲けは期待できない。自由診療が増えることによって、日本の医療が市場化することができるようになる。

また、TPPに参加し、締結した後の本書の想定シナリオは論理的な理念型としてそれなりの説得力を持っている。



 この混合診療が部分的とはいえ拡げられれば、必然的に自由診療が増える。値つけが自由な診療が増加すれば、医療機関の利益は上がる。これが呼び水となって「米国系企業の権益増強」「病院の株式会社化」「医療従事者や患者の国際移動」などにも拍車がかかる。混合診療の拡大は、医療の自由市場膨張への突破口のような意味合いを持っているのだ。(p.111)


上でも述べたが、「自由診療が増える」→「医療機関の利益を追求できる」→「医療が市場化する」という関係性が明確に理解できたことが本書からの収穫だった。

そして、混合診療の拡大という現在少しずつ進められている方向性は、自由診療の拡大への道を開くものであり、この図式の道へと進む入口だということ。



 強調しておきたいのは、先進国のほとんどが豪州のように薬価をコントロールする規制を持っている点だ。日本は診療報酬点数で薬価を決めている。英国は薬による利益の上限を、フランスは総薬剤費に上限を設けて薬価を管理している。
 ところが、米国は先進国で唯一薬価規制が敷かれていない。(p.122)


このあたりの事実を踏まえると、アメリカが加わっているTPPでは、薬価も自由化が求められる圧力がかかることが容易に予想できる。




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