アヴェスターにはこう書いている?
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本田良一 『ルポ 生活保護 貧困をなくす新たな取り組み』

 かつて「適正化」のモデルとされた、保護費支給を厳しく抑制する北九州方式は孤独死に象徴される多くの「犠牲者」を生んで行き詰まり、いま、保護率50パーミルという、かつての手本から最も遠い存在だった釧路市に、国も自治体も注目し始めた。(p.)


近年になって生活保護をめぐる施策の流れが変わってきたことを指摘している。確かにそうした流れはあるように思われる。

生活保護に関する現場の流れも自立支援プログラムの導入をめぐる(単なる議論ではなく実際の)取り組みの中で、事後的な処罰から事前予防の観点から取り組もうとする自治体が増える傾向の萌芽がみられるし、また、短期的に就労自立を強く促進できるかどうかは別としても、中長期的に「自立」(日常生活自立や社会生活自立を含む)を促進する方向の施策(中学生の進学を促進するための取り組みや、母子家庭などの生活面へのケアを通して、貧困再生産を多少なりとも予防しようとする取り組み、すぐには就労できる見込みがない受給者にも「中間就労」の機会を付与する取り組みなど)が少しずつではあるが浸透しつつあるからである。

これは望ましい方向性ではあるとは思うが、生活保護を改善しても福祉全体の改善には必ずしもつながらないのではないか、という最近の私の考えからすると、やや的が外れたところでの取り組みであるように思われる。予防するなら生活保護制度の実施機関が行うより前の段階でより強く行うべきだし、中長期的な自立の支援も保護受給といういわば「丸裸の状態」に至る前に行う方が効果的だと思うからである。

自立支援プログラムに対する私の批判は、自立支援プログラムの「自立」が経済的自立だけでなく、日常生活自立や社会生活自立をも含むものだとするのであれば、生活保護受給者だけに限定して適用されるのはあまりにも狭すぎる、という点にあり、むしろ、日常生活自立や社会生活自立の支援は生活保護制度以外の、より普遍的に適用できる方法で行うべきだ、というものである。もちろん、生活保護受給者も他法他施策優先の原理により、それらの効用を受けることができるはずである。

その意味で、本書が注目する釧路市の自立支援プログラムについても、生活保護のセクションではなく、それ以外のセクションで扱うべきものが多いように思われるのである。生活保護の守備範囲を狭め、それ以外の福祉施策(生活保護以前のセーフティネット)を充実させる方が、現行の日本の福祉制度は改善するのではないか?



 文部科学省によると、子どもが公立学校へ通う場合、保護者の年間負担は一人平均で小学生9万7500円、中学生16万9700円(2006年度)。就学援助は、こうした負担を公費で支え、経済的な理由で就学が困難な小中学生を支援しようと、1957年度から国の事業としてスタートした。
 ……(中略)……。
 国は04年度まで補助金を出していたが、05年度以降は三位一体の改革によって使い道が限定されていない一般財源となる地方交付税に組み込まれ、生活保護世帯に対する負担金だけが続いている。各自治体間の支給基準をめぐる格差は、この一般財源化によって拡大したとみられる。(p.60-61)


就学援助の利用者も近年急速に増えているそうだが、三位一体改革によって一般財源化されることによって、利用者急増に中央政府は直接対応しなくてもよくなった。その分の負担を自治体がしなければならなくなったわけであり、中央政府のこうした財政責任の放棄は、自治体による制度の運用を悪化させることに繋がる。そのわかりやすい一例だろう。



 2000年時点で日本の子どもの貧困率は14.3%。ほぼ7人に1人の割合だ。これは税金や医療保険など社会保険料の負担を差し引き、逆に児童手当や年金など社会保障給付を加えた可処分所得で見たもの、つまり税制や社会保障制度など国による所得再分配が行われた後の数字だ。この所得再分配後の貧困率を再分配前の数字と比べると、国による貧困削減の効果を計ることができる。これを見ると、再分配前の日本の子どもの貧困率は12.9%。つまり、日本は税制や社会保障制度によって子どもの貧困率を逆に1.4ポイント悪化させているのだ。(p.64)


消費税増税の議論でその逆進性の点から批判するという言説があるが、その説はこうした現状からみると妥当なものだということになる。

私見では増税の際には累進消費税の導入や所得税の累進性の構造を80年代頃の水準に戻すことや贈与税と相続税の課税最低限を下げながら累進性を高めることなどを軸として行うべきだと考えている。



 釧路市の自立支援プログラムがすべてうまく進んでいるわけではない。まず、ケースワーカーは受給者の生活ぶりなどを考慮した上で、参加を呼びかけるのだが、「やってみよう」と答える受給者は少ない。釧路市の2009年度の平均保護世帯数は5940世帯。プログラムの参加割合は12%にすぎない。
 プログラム参加をきっかけに経済的に自立したが、その後、挫折した例もある。
 ……(中略)……。
 Mさんの例は、自立後のフォローがない自立支援プログラムの弱点も浮き彫りにした。(p.191-193)


本書は大部分を釧路市の自立支援プログラムに関連する記述で埋められているのだが、うまくいっていない点を挙げているのはほぼこの部分だけではないか、というくらい肯定的に評価している。その意味で、こうした欠点の記述はその実態を把握する上で重要な個所である。

参加者が少ないということは、成功例があるとしても大量現象として成功事例が多数出ているわけではないということを物語る。また、自立後のフォローがないという弱点については、私が上で述べた生活保護制度の外でこうしたプログラムは行われるべきだという論点に正当性を付与するものである。生活保護が何もかも丸抱えしているから、自立後の世界は生活保護が適用されている状態と大きく異なることとなり、その環境変化に適応できなかった場合に挫折を引き起こすし、自立することへの不安を受給者に植え付け、結果、できるだけ保護を受け続けようとする心理を生じさせてしまうのである。生活保護については、制度を分立すべきだということも何度も書いてきたが、これはその主張とも通じている問題である。



 東京都は2008年度から生活保護家庭の小中学生に直接、塾代を支援している。……(中略)……。高校就学費用が支給されるようになったとしても、高校入試を突破できる学力がないと、進学できない。板橋区でも、江戸川中三勉強会の取り組みは知っていたが、ケースワーカーや社会人ボランティアを組織することは難しいと判断。そこで、07年度から塾代を年間19万円まで支給し、進学率向上を目指した。こうした取り組みの結果、全日制高校への進学率は05年度は71.0%だったが、06年度71.6%、07年度75.7%、08年度76.2%と年々上昇している。
 都は08年度、生活保護世帯ではないが、生計が苦しい家庭で進学を目指す中学三年生、高校三年生を対象に塾代を貸し付ける制度も開始。上限は中学三年生が15万円、高校三年生は20万円。合格すれば返済を免除される。(p.206-207)


問題は金だけではないとはいえ、貧困の再生産を防ぐにはそれなりの効果がありそうな施策である。



 給付付き税額控除を進めていくと「ベーシック・インカム」になる。(p.237)


なるほど。



 一般世帯の生活レベルの低下に合わせて保護基準が下げられていくと、「最低限度の生活」レベルは、歯止めなく際限なく落ちていく。(p.241)


このことはよく言われることであり、私もそう思っていたことはあるが、今はやや否定的である。本当にそうだろうか?

かつては生活保護制度があっても現在よりもかなり支給水準は低かったことが忘れられてはいないだろうか?現在は保護基準の算定にあたって、格差縮小方式を採用して格差が十分縮小したとの認識に基づいて水準均衡方式が採用されている。裏を返せば、かつては一般世帯と保護世帯の格差は現在よりも大きかったということだ。その頃でも生活保護受給世帯は厳しいなりにもそれなりに生活してきたはずであり、直ちに餓死するようなレベルであったわけではない。また、逆に一般世帯の生活レベルが下がっても、いつまでも保護基準を下げないでおくことによって、たとえば日本の全世帯の8割が保護基準以下になったとすれば、制度は成り立つだろうか?というように考えれば、一般世帯の生活水準が低下するのに伴って保護の基準も下がるのはやむを得ないところであろう。

水準均衡方式を採用しながら(またはそれに近い方法で)基準引き下げを行うならば、歯止めなく落ちていくことはない。この場合、もし一般世帯の生活レベルが際限なく下がるとすれば、生活保護の基準も際限なく下がることになるが、そのとき第一に問題になるのは、その時の世界経済の状態に対する適切な経済政策や企業の行動をとることであって生活保護制度ではないはずである。


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