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森川清 『権利としての生活保護法 その理念と実務』(その2)

 統計的にも、1973年から1984年まで12年にわたって19、20万世帯台で推移していた生活保護開始件数が、1985年には17万世帯台、1986年には16万世帯台、1987年には14万世帯台、1988年には13万世帯台と急速に減少していった。その後、バブル経済の影響もあってバブル崩壊まで減少傾向は強まったが、バブル経済の影響が出る前にすでに減少が始まっており、経済的要因では説明ができない。(p.41)


保護の新規開始件数が1985年から急に減少しているが、経済的要因だけでは説明できないという指摘は重要。



 1981年の123号通知とともに保護抑制に大きく働き、違法行為を助長したのが、地方の財政負担の増加である。被保護世帯及び保護率が減少に転じた1985年に、国の負担が80%から70%に変更されたのは偶然ではない。(p.42)


一つ前の引用文へのコメントに付け加えるならば、経済的要因ではなく財政的要因が保護開始件数減少の大きな要因である、ということになる。

生活保護制度がナショナルミニマムを保障するものであるとするならば、その水準を維持するためには中央政府の財政負担割合が高い方が望ましい。財政的には中央政府の全額負担で、実施責任も中央政府(厚生労働省)というのが、恐らく一番適切に運用されるやり方ではなかろうか。(財政責任が中央政府で実施責任が地方政府である場合、逆に濫給となる可能性が高い。)



 アメリカでは、TANFのほかに生活困窮者を対象とした制度として、フードスタンプ(食料)、メディケア(医療)、EITC(勤労者への税からの割り戻し給付)などの制度がある。また、連邦以外でも、州レベルでGR(General Relief)という給付があったりする。そのため、TANFを打ち切られても、ほかの制度による援助が受けられる可能性がある。
 しかし、日本にはこのような給付は存在しない。このまま生活保護が有期保護になれば、有期保護期間を経過した者は、ほかの給付を得ることができず、最悪の事態に陥る者がアメリカ以上に増えることとなる。
 そのような事態を回避しようとすれば、地方自治体が給付制度を創設しなければならなくなる。実際にアメリカでは州が給付制度を創設している。日本では、地方自治体が有期保護導入を求めているが、国に肩代わりして新たな支援策を講ずる覚悟はない。有期保護制度は地方の財政負担を大きくする可能性が高い。(p.45)


TANFとは、アメリカの公的扶助制度であるTemporary Assistance for Needy Familiesの略で、有期の生活保護のような制度である。

昨今、日本でも議論がされ、地方自治体が提唱することが多い有期保護制度について、それが逆に自治体の財政負担を増やす可能性があるという指摘は興味深く、一考に値する。

私見では、公的扶助を受けられない者が続出する事態が生じることになったとしても、自治体は新たな支援策を講じないのではないか。一つには、当然財政的な問題があるが、さらに自治体の政策形成能力は極めて低いという事情が加わるからである。地方政府は日本の場合、中央政府の手足であって頭脳ではない。もちろん、自治体にも政策を形成・決定する能力は全くないわけではないが、70年代頃の「革新自治体」の時代とは状況が異なっている。

革新自治体の時代は、財政が拡大していく局面であり、歳入が増えるということを見込んだ上で新しい事業として何を始めるか、という選択肢が自治体の側にあった。それが市町村長の政治的な思惑と結びつくことによって新しい福祉政策などが次々と出てくることになった。しかし、現在は財政を縮小しなければならず、言うなれば翌年は今年よりも削減しなければならない、というような客観情勢である。つまり、自治体は「何を削るか」を常に求められる状況であり、新しい問題が生じてもそれに対処しようとするインセンティブは働かないのである。また、政策形成能力が低いとしたのは、自治体は手足として中央政府から使われているのだが、手足を構成する自治体の人手が不足傾向にある(新規採用を控える形で人員削減が進んでいる)からである。政策を立案したり新しい問題に取り組む人材面の余裕がない。これは自治体の政策立案能力が弱い根本的な理由の一つである。巷でありがちな「自治体の職員は質が低い」などという測定不可能な偏見を表明しているのではなく、「制度的に中央政府の手足として使われるという他律的な状況の下に置かれながら、財政的な理由で人手不足により手仕事に忙殺される傾向が強まっているために、新しい政策の構築などできない状況である」と言っているのである。


その意味では有期保護制度が導入された際のしわ寄せは必ずしも自治体財政に行くとは限らず、中央政府の財政かまたは公的扶助を受けられない人々か、彼らを助けようと立ち上がるNGOなどが負担を被る可能性は十分あるのではないだろうか。

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