アヴェスターにはこう書いている?
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杉村宏、岡部卓、布川日佐史 編 『よくわかる公的扶助 低所得者支援と生活保護制度』(その1)

しかしながらどのような事情があるにせよ、特定の人々が長期的貧困状態におかれることによって、人間らしさが失われ、社会の不安定化の原因になるとするならば、貧困を社会的な努力によって解決していかなければなりません。(p.5)


「貧困」がなぜあってはいけないのか、と問われると、実は答えるのは容易ではない。まず「貧困」なる言葉自体が「あってはならないもの」「是正を要するもの」という方向に強く価値付加された言葉であるということは押さえておく必要がある。つまり、何らかの観察または想像された事実を「貧困」と呼ぶことによって、その事実に対して負の価値を付加することになる。

そして、強く価値付加されているがゆえに、「あってはならない」理由についての判断は道徳に傾きがちである。しかし、それでは科学としては成り立ちにくいため、持ち出されることになるのが「社会の秩序」である。それはごく自然な流れであり、この論法自体を全否定することはできないと考えている。こうした要因は確かに関係があるからである。

しかし、それでもこの引用文のロジックには引っかかるものがある。「社会の不安定化の原因」になるから貧困を「社会的な努力によって解決すべき」だとしているが、この貧困の「解決」とは何を指すのだろうか?貧困という望ましくない状態がなくなることであろうか?自然に解釈するとそう読める。なぜなら、「貧困」な人が残っている限り、「貧困」という問題は残るからである。しかし、「社会の不安定化」を避けるという目的のためには「すべての人」の「貧困」を「解決」しなければならないのだろうか?恐らく否ではないだろうか?

ネットワーク研究から得たイメージを使うと、「貧困」が全くない世界というのは、資源を分配するリンクがランダムグラフのようになっている世界ではないか。人間社会がランダムグラフに似た状態になる可能性はほとんどゼロであると思われる。そうだとすれば、理想としては「すべての貧困を根絶するべきだ」という理念を努力目標として掲げることは重要で意味があることだと思われるが、現実にそれを実現する方法というものは実は存在しないらしい、というリアリズムもまた求められるように思われる。

福祉研究者の言説は理想主義に傾きすぎる傾向が私には感じられる。高邁な理想を掲げることは否定するつもりはないが、粗雑な論理構成によって理想が説かれると、そのエラーをはっきり見て取れない人でも何か胡散臭さを感じてしまうし、エラーを具体的に指摘されてしまうと論自体が説得力を失うことになり、せっかくの高邁な理想がほんとうに現実とはかけ離れた絵空事と見なされてしまいかねない。その意味では福祉の研究者には理想を特にしてももう少し社会の現実的な構造を踏まえながら論理を構成して欲しいと思う。

私は福祉の給付をさらに増進させていくことに対しては(可能な限り累進的な)増税とセットで行なうという条件の下で賛成している立場である。その意味では福祉の意義を説く研究者にはもう少し奮闘してもらいたいものである。



 そのような議論(※引用者注;長期貧困者の子は生まれつき怠惰で依存的であるなどの偏見)に陥らないためにも、貧困の世代的再生産とは、「親から子へ」といった単線的・決定論的な現象ではなく、その社会における教育制度や社会保障制度が深く関係した構造的なプロセスであると理解することが重要です。……(中略)……。
 「貧困の世代的再生産」という著しく不平等な問題状況を解消するためには、家族依存の構造を是正すること、つまり貧困家族への所得保障はもちろんのこと、教育・医療・住宅面など総合的な支援策が必要だといえます。(p.11)


本書は主に生活保護制度についての教科書なのだが、この節で述べられているのは、基本的に生活保護制度ではなく、それ以前の段階のセーフティネットの話であると私には思われる。現行の生活保護制度を使う段階でこのような構造的な問題を解決しようと思ってもかなり困難である。



保護廃止世帯の中で、収入が増加し最低生活費を上回って保護が廃止される世帯は20%程度にとどまり、死亡・失踪を除けば、あいかわらず生活状態は不安定なままの世帯が多いといえます。(p.17)


通常の要否判定で廃止となるのは20%程度というのは随分多いように思われたので、調べてみたら案の定、平成19年度には12.2%だった。保護からの就労による自立というのは、かなり難事業なのである。受給者には高齢者や障害者が多いため、そもそもその可能性がない人が大部分だということも大きな要因だが、受給者は低学歴で職業上の資格どころか自動車免許すら持っていない人も多いため、仕事を探しても低賃金や不安定就労が多く、保護費以上に稼ぐというのはかなり困難な面があることが「就労自立」を困難にしている。

これはもちろん最低賃金が低すぎることが一因だが、他のセーフティネットと比較して生活保護は少し突出して水準が高くバランスが悪いように思われる。生活保護が持っている機能の多くを他の制度に振り分けることで生活保護以前のセーフティネットを少し手厚くし、生活保護受給者は「他法他施策優先の原則」によりそれらのセーフティネットを利用できるようにするという形で、生活保護本体による給付水準を下げる(他法と合わせると現行並みの水準を維持する)というバランスの調整は必要であるように思われる。


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