アヴェスターにはこう書いている?
本を読んでいて気になったことなどを徒然なるままにメモしておくブログ。書評というより「読書メモ」。
プロフィール

ツァラトゥストラ

Author:ツァラトゥストラ
「ツァラトゥストラはこう言っている?」の姉妹編。日々読んでいる本から気になった箇所をピックアップして自由にコメントするブログ。

FC2ブログランキング

FC2ブログランキング

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

尾藤廣喜、松崎喜良、吉永純 編著 『改訂新版 これが生活保護だ 福祉最前線からの検証』

 就労支援は、法の原則などにもとづいて行う、と同時にどのような人でも労働する権利を有しており、権利実現のための福祉援助としても行われるべきである。単なる保護費の削減、保護の廃止を目的とすべきではなく、生活問題改善、生活基盤確立のための自立助長の処遇として位置付けられるべきものである。従って、どれだけ収入を得たのかではなく、就労の意義を自覚し、どれだけ努力してその人とその人の生活が変わったのか、労働する権利の実現のためにどこまで援助できたか、で評価を行うべきである。
 ・・・(中略)・・・
 利用者との信頼関係を確立して、「就労の効果」が理解されるようわかりやすく話し合い、共に悩み考えて一つ一つ話を煮詰めていく。時間をかけるとともに、目的意識を持って集中して取り組むことが求められる。(p.108-110)


生活保護制度の運用にあたって、水際作戦とか辞退届強要といったセンセーショナルなもののほかに、制度利用者(生活保護受給者)の権利を擁護しようとする立場の人々から批判が行われることの一つに、厳しい就労指導(働くよう追い立てられる)がある。

それに対して、上記のような考え方を対置して運用の改善を求めることは、確かに必要なことではあろう。そして、これは正論でもある。

ただ、生活保護の運用を批判する立場の人々の主張に、往々にして欠けているのは、いかにしてそれを実現するか、という視点である。

働く権利を実現するための福祉援助と位置付けることには、私も全く異存はないのだが、ではどうすれば現場で「どれだけ収入を得たのかではなく、就労の意義を自覚し、どれだけ努力してその人とその人の生活が変わったのか、労働する権利の実現のためにどこまで援助できたか、で評価」が行われることが可能となるのか?生活保護に対するリベラル・人権派からの批判には、しばしばこうした初歩的な視点が欠けていることが大変気になるところである。

このために「時間をかけるとともに、目的意識を持って集中して取り組むこと」が求められるのは確かであろう。しかし、現場にそうした時間や労力の余裕があるのかどうか?恐らくないのである。そして、そうした余裕がないから、機械的で画一的な就労指導が蔓延してしまうのではなかろうか?利用者(保護受給者)の意見や考え方をよく聞いて、その問題に寄り添って考えるというような余力がないのではないだろうか?

ケースワーカーの人員配置の基準は長いこと変わっていないが、悪名高い123号通知が出てからは事務量が増えたとも聞く。その上、関連領域である福祉の諸制度も複雑さをましているとなれば、その影響も及んでいるだろう。こうした現状に対して現行の80世帯に1人のワーカーを配置するという体制を例えば、60世帯なり50世帯にまで減らせば、上記のような「理想的な」就労指導の実現もしやすいであろう。

もちろん、これですべて解決するということではないが、前提条件の一つは整うと思われる。そうした実施体制の問題を無視してあるべき理想論をぶつけるだけの批判は不毛とまでは言わないが、実践的な効力に欠けると言わざるを得ない。生活保護を最後のセーフティネットにふさわしいものに変えるべきであるということについて、私は本書の意見に大いに共感するが、こうした提言、すなわち、精神論ではなく実施体制の改善のための提言をもっとしてほしいとも同時に思う。それは本書に限ったことではなく、この傾向は政治や特に行政に対する批判の多くに当てはまるとも思っている。本書はどちらかというと素人向けというよりは実務家や専門家向けの内容であるだけに、尚更、その程度の批判はして欲しいと思うのである。



 就労支援プログラムの推進のなかでは、生業扶助を積極的に利用するよう配慮する必要がある。また、生業扶助は、他の扶助とは異なり自立助長のために設けられており、最低生活を下回った生活保護利用者だけでなく、生活困窮を未然に防ぐためにも低所得者対象として生業扶助単給も可能となるように改善していくことが求められている。(p.117-118)


生業扶助の単給を行えるように改善するべきだという主張には大いに納得した。非常に参考になった。ただ、私見を述べれば、それならば生業扶助は生活保護とは別制度にした方が遥かに使い勝手の良いものになるだろう。

この方が生活保護の制度内に留めておくよりもミーンズテストを簡略化できるし、利用の要件についての調査もそれほど厳しいものではないはずであるから、生活保護のケースワーカーのように制度利用者の生活全般を把握するような立場でなくとも、利用可能かどうかについての判定はできるはずだからである。

また、生活保護の一部であるよりは別制度であるほうが利用者が受けるスティグマも軽減されるはずであるから、生活保護受給者以外の人にとっての使いやすさ、アクセスしやすさ(実質的および心理的)も大きく違ってくるだろう。



われわれは、「制度」から人間を見るのではなく、「人間」から制度を見るべきである。(p.233)


ヒューマニズムに溢れた見解であり、確かにそうだと思わされる名文句である。ちなみに、ここでの「われわれ」とは生活保護ケースワーカーを主として想定されているのだが、行政官でなくとも政策について考えをめぐらせる者であれば、しばしば立ち返るべき立場ではあると思う。

しかし、同時に私の念頭に思い浮かんだのは、『プロケースワーカー100の心得』という本では、「ケースワーカーとは、制度を適用する者のことである」とも述べられていたことである。

本書のようなヒューマニズムも大事ではあるが、それはある種の越権行為にもなることがある。私の考えでは行政の仕事とは「ミニマム保障」であるということが基本となっている。そこには「ミニマム」以上のことに介入してはいけないという禁欲的な側面もある。そうした意味では上記のようなヒューマニズムばかりを強調することは行政という場には相応しくない部分もある。いずれの言葉もあまりに教条的にとりすぎないことが重要であろう。それを細かく論じることは、実際にこの業務を長く経験しているケースワーカーでなければ無理であり、私の出る幕ではない。



 地方分権一括法によって生活保護法が一部改正され、法27条の2に新たに「相談及び助言」の規定が設けられた。これによってようやく、従来「法外の事実行為」であったケースワーク(=相談援助活動)に法律上の根拠が与えられることになったが、同時にこれは、「法定受託事務」である「保護の実施決定」と区別され、「自治事務」として位置付けられた。さらに地方分権一括法による「必置規制の見直し」の一環として、生活保護担当ケースワーカーの配置基準は「法定数」から「標準数」へと改められた。大阪市では、それを待ちかねたかのように、2000(平成12)年4月から「高齢者の安否確認のための訪問」に従事する嘱託職員を配置することで、ケースワーカー一人あたり原則80ケースであった従来の基準を、高齢者ケースについては400ケースまで担当させることとした。堺市では、2003(平成15)年度からアルバイトを大量に雇用し、アルバイト一人当たり約240世帯の高齢者を訪問して安否を確認させ、正職員一人に複数のアルバイトを担当させる体制を導入している。(p.381-382)


上で述べた私のケースワーカー数を増やすべきだとする議論とは逆方向の政策がすでに「地方分権」の名の下の新自由主義的政策によって実施されていたわけである。

もっとも、大阪市や堺市のような高齢者を一括して管理するという手法について一概に誤っているとは言えない面もある。ただ、アルバイトなどに訪問させるというのは妥当なのかどうかという疑問もある。社会福祉主事の「きとんとした」資格を持つ人材をアルバイトなり嘱託職員として雇用してやっていくのであれば、現在の体制よりもむしろ改善される面もあるかもしれない。(現在のケースワーカーも社会福祉主事の資格が必要だとされているが、彼らのほとんどは福祉を専門的に勉強した人たちではない。)



 このように、もっとも社会保障の必要な経済的弱者が社会保障の利用が困難とされている矛盾した実態があるのである。(p.400)


国民健康保険料を滞納して保険証が取り上げられた世帯が急増していたり、経済的な理由で国民年金の保険料を納付できなかったりする人が増えていることを受けて上記のように述べられているが、これは日本の社会保障が「行き過ぎた保険主義」に陥っているために起きている問題である。

スポンサーサイト

テーマ:読書メモ - ジャンル:本・雑誌

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
→http://zarathustra.blog55.fc2.com/tb.php/366-2b304ac9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)