アヴェスターにはこう書いている?
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阿部彩、國枝繁樹、鈴木亘、林正義 『生活保護の経済分析』

第1に、支出目的別に生活保護費をみると(図0-2)、総額約2.5兆円のうち、被保護世帯の医療支出に充てられる経費(医療扶助)が51.9%と半分以上を占めている。その一方、生活保護という言葉からイメージされる日常生活のための経費は、45.7%(生活扶助33.5%、住宅扶助12.2%)と半分にも満たない。第2に、受給世帯総数の構成比(図0-3)は、高齢者世帯46.7%、母子世帯8.8%、傷病者世帯24.8%、障害者世帯10.3%、その他の世帯9.4%となっており、高齢者と傷病・障害者世帯で約8割以上を占めている。第3に、条件さえ整えば稼働能力があると考えられる受給世帯(母子世帯およびその他)は受給世帯総数の2割以下である。公的扶助制度は、しばしば労働インセンティブとの関わり合いで批判されるが、このように就労が現実的な問題となる受給者が我が国の生活保護に占めるウェイトは小さい。(p.10)


これは2004年度のデータである。生活保護に関して考えていく場合、基本的な現状認識として上記の点はいずれも重要であると思われる。とりわけ、医療扶助への支出割合が高いことと、労働可能な受給者は2割程度しかいないということは重要である。

医療扶助に関してはやはりカテゴリー別の扶助制度に分立させるべきであり、生活保護制度から切り離すのが妥当な選択であろう。



格差は、所得や消費などの生活水準の分配の状況を単に記述するものであり、計測方法やデータの変化に伴うテクニカルな判断を要するものの、その格差が適度であるのかという価値判断を含んではいない。一方で、貧困は、社会の中で「許されるべきでない」状況を表す概念であり(岩田 2005)、そこには、何が「許されるべきでない」ものなのかという価値判断が存在する。(p.23、本文の傍点部に引用文では下線を付した。以下同様。)


岩田2005とは岩田正美の『現代の貧困』である。このブログでも後日取り上げる予定なので、細かいことはその際に書くことにするが、この「格差」と「貧困」の概念の相違は重要である。

貧困は明確な価値概念であるが、格差はそれが明確ではない。しかし、本書の著者や岩田は、価値判断を含んでいないと言っている点については、厳密に言えば誤りである。なぜなら、「格差」の概念にも「何が比較されるべきか」という価値判断は含まれているからである。(ついでに言えば、どのように比較されるべきかという価値判断も含まれている。)比較されないものは、違い(格差)があっても無視されてしまう。違いがあってもどうでもいいものは問題にされない。「何が問題なのか」ということは格差の概念にも含まれているのである。



必要な防貧機能が維持されるためには、常に、貧困に面している人々がどのような人々であり、どのような制度が彼らを対象にしているのかを把握したうえで、ニーズにマッチした制度改正を行う必要があるのである。(p.30)


政策を考える上での基本である。事実の積み上げから対策を見出すこと。

ただ、認識論的に言えば、「事実」というものは理論負荷的である点はあまり素朴に捉えてはならない。そこには上の格差と貧困の概念の所で述べたような価値判断が常に潜んでいる。したがって、絶対的に妥当な政策というものはありえない。「何が価値あるものであるか」を選択していくことが政策を作るという行為には伴うのである。



日本の政府移転は他国に比べて、貧困層に比較的に重い負担と低い給付、非貧困層に比較的に軽い負担と手厚い給付を行っている。(p.48)


これが実証的な分析の結論である。

社会保険料や税についてもっと累進的に課税すべきであり、給付について貧困層により手厚い給付をすべきである。上記の事実は、私の持論を支持する事実であると言える。



 労働供給に関する文献においては、働くか否かという就労の選択をextensive marginと呼び、何時間働くかという労働時間の選択をintensive marginと呼ぶが、EITC、WFTCおよびSSPの労働供給への影響に関する実証結果は、extensive marginに関する労働供給の弾性値は相当大きいものの、intensive marginに関する労働供給の弾性値は小さいことを示している。(p.64)


EITCとはアメリカの低所得者への補助金であり、WFTCとはイギリスの母子世帯を対象とする就労税額控除である(2003年に対象が拡大されWTCになった)。また、SSPはカナダの母子家庭を対象とした社会実験であり、週30時間以上働いた者に目標金額と実際の収入の半分だけ給付金が払われるという条件で、労働時間などがどう変わるかを実験してみたものである。

上記の引用文が示しているのは、こうした低所得層への金銭的な優遇措置による誘導は、「就労するかどうか」には関係が深いが、「何時間働くか」にはあまり関係がないという結果になったということである。この事実については、このブログやメインブログでも過去に取り上げたことがあったと思うが、一般には十分に区別されずに粗雑な使われ方がされている事例が多いように見受けられる。



生活保護の医療扶助について。

 したがって、この外来医療にモラルハザードによる無駄な医療費が存在しているのであれば、自己負担導入よりも「アクセスコントロール」で対応するほうが現実的であると思われる。アクセスコントロールについては、本来、1節で説明したように医療券・調剤券制度と要否意見書制度が存在しているが、現状は都市部を中心に「なし崩し」の状態であり、ほとんど機能していない。・・・(中略)・・・。
 この背景には、福祉事務所が医療機関よりも医療の専門知識に乏しく、アクセスコントロールの責任が取れないために、医療機関と患者の言いなりにならざるを得ないということがある。したがって、このアクセスコントロールを再び機能させる一つの方法は、イギリスの国民医療制度(NHS: National Health System)のようにゲートキーパー医を設けることである。イギリスの国民医療制度は全額公費で行われる代わりに、患者は勝手に医療機関を選択することができない。ゲートキーパーという主治医をまず受診し、その医師の判断によって、さらに別の専門的な医療機関にかかれるかどうかが決められる。現状でも、生活保護制度には指定医療機関制度があるが、その協力関係をさらに強化・法制化することにより、各地区にゲートキーパー医を設けてはどうか。そして、事前に協力謝金などの形で医療機関の協力を予算化することにより、頻回受信者を注意したり、不必要な診療は拒否、認めないようにする。こうしたアクセスコントロールは、医療の専門家のみが可能な制度なのであり、これまで福祉事務所に権限があったことがそもそもの間違いなのである。(p.164-165)


大変よいアイディアであるように思われる。緊急の入院が必要な場合などはこうした手順を踏めないかもしれないが、通常の場合はこの制度でやった方がいいように思われる。

ただ、ゲートキーパー医に不要な診療を拒否する誘因があるかどうか(実際にどの程度、頻回受信者への注意のようなことが行われているのか)という点がやや気になる。専門知識に基づいて客観的に判断することができるとい前提に立っているが、イギリスではこのあたりはどうなっているのだろうか?非常に気になるところであり後日調べてみたいところである。



 しかし、公的扶助制度を国際比較する場合は、国によって公的扶助の守備範囲が異なることに注意する必要がある。公的扶助は最後の安全網であるが故に、その守備範囲は他の社会保障制度がカバーしない「残余」の部分となる。例えば、他の安全網が充実していると公的扶助の守備範囲は小さくなり、また逆に他の安全網が貧弱であると、公的扶助の守備範囲は大きくなる。(p.240)


この指摘は基本的であり、それゆえに重要であろう。忘れてはならないこと。



 地方公共団体による生活保護事務は、生活保護法や社会福祉法などが規定する法定事務である。生活保護受給にはさまざまな要件があり、これらの要件を確認するためにケースワーカー(生活保護担当の現業員)は資力調査を行う。このような保護決定・保護費給付事務は、救護施設整備に加えて、法定受託事務とされる。もちろん、生活保護事務はそれだけではなく、社会福祉法によって現業員は「本人の資産や環境等を調査し、保護その他の措置の必要の有無及びその種類を判断」するだけでなく、「措置を要する者等の生活指導を行う」ことが求められる。つまりケースワークであるが、これは法定受託事務とされていないため、(法定)自治事務とされる。(p.242-243)


生活保護の事務はすべて法定受託事務かと思っていたのだが、その核心ともいうべきケースワークが法定受託事務ではなく自治事務であることに、単純に驚いた。

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