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アヴェスターにはこう書いている?
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加藤博 『イスラーム世界の危機と改革』

 バーブ教徒の反乱は、イラン民衆の不満を背景とした広範な政治運動であったが、最後には、異端的な宗教運動として終わった。これにたいして、民衆の不満や反発をイラン民族主義の高揚として収斂させた政治運動と評価され、それゆえに、現在の近代イラン史研究において、イラン民族主義運動の起点として位置づけられているのが、1891年から翌年にかけてのタバコ・ボイコット運動である。
 1890年、シャー(国王)は、イギリス人にたいし期間を50年として、すでに大衆嗜好品となっていた水ぎせるにかんする一切の専売権を与えた。この事実が伝わるや、バーザール商人やウラマーを中心に、一般民衆を巻き込んだ全国的な反対運動が発生した。その結果、シャーは、九カ月後、この利権賦与を撤回せざるをえなくなる。
 このタバコ・ボイコット運動は、イスラームの宗教指導者であるウラマーが主導的な役割をはたしたこと、伝統的なバーザール商人が運動の主体となった点などにおいて、1979年のホメイニー師を指導者とするイラン・イスラーム革命にまで続く、イランの政治運動の一つの原型をつくった。
 もっとも、この運動によって実現したタバコ専売の利権撤回によって、事態が改善されたわけではなかった。逆に、この利権撤回がイランの列強にたいする一層の従属化をもたらした。利権の回収にあたって、イラン政府は多額の借款を受け入れたが、それが契機となって、イラン財政が事実上、イギリスの支配下におかれることになったからである。こうして、対外的にはイギリスとロシアのいいなりになり、対内的には専制支配を強めるカージャール朝にたいして批判が高まった。(p.60-62)


 逆説的な帰結が導かれた点は興味深い。政府間の力関係が大きく違う場合、どのように転んでも強い側は事を有利に運ぶことができる傾向がある。



 前近代のイスラーム世界における経済の繁栄は、高度な灌漑技術によって可能となった農業の高い生産性のほか、この世界がアジア、ヨーロッパ、アフリカの三大陸の要に位置していたという地理的優位から、当時存在していたいくつもの交易圏の結節点として機能したことによってもたらされた。・・・(中略)・・・。
 また、イスラーム世界において、基幹交易路はメッカ、メディナへの巡礼路でもあった。そのため、イスラーム世界の政治権力は経済的のみならず、宗教的な意味からも交易路の治安に意を用いなければならなかった。こうして形成された広大な流通空間があったればこそ、後述するような、イスラーム教徒の網の目のように張りめぐらされたネットワークも可能となったのである。
 つまり、イスラーム社会は高度に都市型の社会であった。前近代をつうじて、支配階層は都市に居住しつづけた。そのため、各地の地域社会は、経済的にも政治的にも求心力のある都市を核にして形成された。
 しかし、このことは同時に、イスラーム世界に、歴史的事件に左右されやすいという構造的な脆弱さをもたらすことにもなった。というのは、農耕、牧畜は気候の変化、塩害などの長期的・突発的な自然条件の破局を除けば、少なくとも短中期的には、その経済活動を大きな破綻なしに継続しうるのにたいして、交易の盛衰は、それが狭い経済生活をこえた政治事情など、広範な生活諸条件に立脚しているがゆえに、容易に歴史的事件の勃発によって左右されるからである。
 実際、イスラーム世界の歴史をつうじて、交易路の変化と王朝、都市の盛衰とのあいだに高い相関性を観察できる。王朝の中心地の移動は基幹交易路の変化をもたらすのみならず、技術、文化の根こそぎの移植をさえ意味した。たとえば、1517年、オスマン帝国がマムルーク朝を滅亡させ、エジプトを征服したさい、それまでのカイロの繁栄を支えていた多くの職人、文化人、芸人がイスタンブルに連れていかれ、技術とイスラーム文化の粋がオスマン帝国の首都に移植された。(p.69-72)


高度に発達した都市のネットワークによってイスラーム世界は成り立っていた(いる)というところまでは、まぁ、常識というところだろう。(ムスリムを「砂漠の民」などと呼ぶのは、この地域についてほどんと何も知らない人だろう。)むしろ、面白いのは、都市のネットワークによって成り立っているがゆえに、ある種の脆弱性があったという指摘である。

ハブの状態が変わることによって、ネットワークには大きな影響が及ぶ。その意味での不安定さはあると言えそうだ。ただ、時と場合によっては、それはダイナミズムの源泉でもあるのではないか、という気もする。
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