アヴェスターにはこう書いている?
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増田直紀、今野紀雄 『複雑ネットワークの科学』

 実は、ミルグラムは心理学者として6次の隔たりの他にもうひとつ大きな成果を世に残した。それは「服従の心理」についてである。彼は、人が権威からの命令に容易に服従してしまうことを実験的に示した。実験のデザインはやや衝撃的だ。図2.8のように、自由意志で集められた被験者(b)は、指示を与える実験者(a)とサクラの生徒(c)と共に部屋に入る。被験者は、実験者とサクラがつるんでいることは知らない。被験者は、単語を覚える簡単な課題を生徒にやらせる。ここまでは何ともないが、被験者は、生徒が間違えると電気ショックを与えるように指示される。罰の強さは15~450ボルトで調節できて、生徒が誤答するたびに徐々に強くすることになっている。450ボルトは命が危ないレベルで、そこに到達する前に被験者は「本当にいいのですか?」、「もうやめましょう」などと実験者にいう。ところが、「大丈夫です。何か起こったときの責任は私にありますから」という実験者の言質によって、生徒が悶絶するのを片目に被験者の多くが450ボルトまで出してしまう。ここで、実験者が権威あるミルグラム大学教授のお墨つきをもらった人物だといことがミソだ。ミルグラムは、役割を交代する、実験者を2人にするなど色々な対照実験も行った。興味深いことに、ただの人が実験者の役割になったり、権威ある人が罰を受ける立場になったりすると服従効果は激減する。
 本当は、サクラは痛がる演技をしているだけで電気ショックを受けてはいない。それにしても、この実験結果は、人間が本質的に権威に弱いことを示すものとして注目された。権威とは、社会的地位の高い人や上司、先生、親など上下関係が規定されているときの命令する側ということだ。
 研究の背景には第二次世界大戦のナチスによるユダヤ人迫害、ベトナム戦争などがある。この実験は通称アイヒマン実験と呼ばれている。アドルフ・アイヒマンは、ナチスが行ったユダヤ人600万人虐殺の総責任者だ。ミルグラムは、戦争中の兵士の多くは上から命令されたことをただやっている、という心理状態にあるらしいことに注目した。権威の命令によって人はどれだけでも残虐になれる、という人間の恐ろしい側面を照らし出したわけだ。(p.30-31)



有名な実験だが、多くの人にとって知る価値があると思うので、記録しておきたい。

この実験からは、例えば、南京事件や沖縄の集団自決のようなケースにおいて、公的な命令であるかどうかに関わらず、兵士にとっての上官や一般市民にとっての軍人のような「権威ある者によって指示されたこと」は行われやすいという論理的な帰結が得られる(★注)。

つまり、例えば、手榴弾などを渡された沖縄の住民にしても、「軍隊という権威ある(逆らいがたい)集団に属し、さらに、武器を持ち、その合法的行使さえも可能であるという事実によって、優越的な地位にある人間」から命令ないし指示されたことには、「服従の心理」が働きやすい、といういうことである。

もちろん、公式な文書での命令が残っているかないかに関わらず――むしろ、沖縄の住民側に対して事実上の心理的プレッシャーがあったかどうかが問題――である。これはむしろ、文書資料ではなく、証言によって「確からしさ」が決まることである。

さらに付け加えると、歴史学は文書(や物理的な証拠)だけを史料とするものではないだろう。例えば、中央アジアの伝承文学などは文章ではなく、口頭で伝承されているものであるが――もちろん、すでに今は研究の結果、テクストになっているけれども――歴史学の史料として使われる。歴史学者はそれらを聞き取り、復元・再構成し、それらの文学がどの時代のどういった事柄を反映しているのかを確定したりしている。


(★注) なお、この点を否定したい者は、アイヒマン実験を別個の実験的ないし実証的な根拠に基づいて批判することで、自らの主張を基礎付ける事実を提示した上で、歴史的に何が起こったのかという事実を明示し、その「確からしさ」が私の提示した論理の「確からしさ」よりも上回ることを示すべきであろう。
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