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アヴェスターにはこう書いている?
本を読んでいて気になったことなどを徒然なるままにメモしておくブログ。書評というより「読書メモ」。
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荒松雄 『インド史におけるイスラム聖廟』(その2)

 以上、トゥグルグ朝後期の史書の記述を引用しつつ、スルターン=フィーローズ=シャーの治世におけるスーフィーを含めた宗教者の処遇の改善、ハーンカーや宗教建造物の建設や改築・補修事業の進展、あるいは、公費によるダルガーおよびハーンカーの維持といった事実などについて、その一端を紹介してきた。ズィヤーウッディーン=バラニーやシャムセ=スィラージュ=アフィーフの如き宮廷史家、あるいはスルターン自身の手になるという文献だけに、その記述の内容には、若干の誇張が認められることは致し方ない。しかし、これらの叙述によって、大筋においては、トゥグルグ朝後期のスルターン=フィーローズ=シャーの治世には、さきのムハンマド=シャーの時代に企てられたスーフィー教団の抑圧、あるいは権力によるスーフィー聖者の統制・支配といった政策が、大幅に転換をみたことが、ほぼ推察されるのである。……(中略)……。
 これらのことがらは、右に私がいくつかの例を挙げて紹介した同時代の文献の記述内容によって推察されるばかりでなく、スルターン=フィーローズの治世に造営されたと思われる建造物が、デリー地域に残存している一部のダルガーの内域やその周辺の地に見出されることや、その時期に造られたと思われる建造物で、今日なお往古のシェイフたちのハーンカーあるいはチッラーガーchillagahと伝えられている遺跡が残っているという事実によっても裏づけられると思うのである。それらの遺跡のなかには、スルターン=フィーローズ=シャーの名やその治世に当る年次とを記している歴史碑文が現存している建造物も見出されるのである。
 ……(中略)……。しかしながら、こうした建造物の数や、本節で私が述べてきたような状況が、一部の文献が記しているように、スーフィー聖者の活動あるいは拠点となったハーンカーやダルガーの権威に対する、スルターン=フィーローズ=シャーの側からの崇敬の心情や寛大な政策の結果であるとだけ考えるとしたら、それは、一面的な考察というそしりを免れないであろう。一方において、宗教者の活動、とくに一部のスーフィーの熱心な実践、あるいは一部スーフィー聖者のダルガーの持つ社会的影響力を考え、他の一方において、支配権力の側からする支配貫徹の論理を考えるとき、サルタナット権力による宗教者および宗教施設の掌握という政策的意図を、さきの歴史的事実のなかに見出さざるを得ないのである。とりわけ、上に述べてきたスルターン=フィーローズ=シャーの場合には、彼のイスラムへの信仰の根強さの背後に秘められた、サルタナット最高主権者としての政策的意図を認めないわけにはいかないのである。
 このことと関連して注目すべき点は、この時代を契機として、ハーンカーの社会的意味に変化が見られるということである。くり返し述べてきたように、ジャマーァト=ハーナやハーンカーの如き宗教施設は、スーフィー同士、あるいは、ヒンドゥーその他の異教徒をも含む民衆とスーフィーとのあいだの接触の場であった。それは、第一義的には、ムスリム宗教者にとっての修道・布教の拠点であり、ムスリム=コミュニティーのメンバーの連帯意識を相互に確認し合う場所でもあった。しかしながら、私がさきに引用したバラニーその他同時代の文献に見る記述内容は、トゥグルグ朝後期におけるハーンカーが、そうしたハーンカー本来の目的乃至は機能とは少しく異なった方向に利用されていったことを推測させはしないであろうか。数百から千を越える数にものぼって建てられたとされるハーンカーが、むしろそうしたムスリム社会本来の宗教的・社会的目的のほかに、交通の整備、流通経済の維持、治安の確保、あるいは未知の旅行者や遊行者などの把握を最も能率的かつ組織的に行い得る施設としての機能を持つものとして造営されたものであることを思わせるのである。(p.642-643)


宗教者に対して強硬なムハンマド=シャーのに対し、次のフィーローズ=シャーの政策は宗教者に対して融和的であると見えるが、単に飴を与えるだけでなく、宗教者たちの影響力を(経済政策なども含めた)統治のために利用する意図を持って寛容な政策をとったという。この辺りは、本書の考察の中でも最も興味深い部分の一つである。

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