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アヴェスターにはこう書いている?
本を読んでいて気になったことなどを徒然なるままにメモしておくブログ。書評というより「読書メモ」。
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「ツァラトゥストラはこう言っている?」の姉妹編。日々読んでいる本から気になった箇所をピックアップして自由にコメントするブログ。

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マックス・ウェーバー 『仕事としての学問 仕事としての政治』
「仕事としての学問」より

「事実などはなく、あるのは解釈のみだ」(ニーチェ 『権力への意志』481)という遠近法主義からは、自分にとって都合がいい「事実」しか見ないという傾向が当然出てくる。そうすると、それぞれの立場が自分に有利なエビデンスを持ち出し、相手の「事実」を「捏造」だと言って罵ることになる。客観的な事実よりも感情的な訴えかけのほうが影響力をもちやすい事態を「ポスト真実」と呼ぶならば、こうした状況においてこそ、自分にとって「都合の悪い事実」と向き合え、という政治教育の仕事は重要になる。(p.64-65)



優れた教師は都合の悪い事実を認めることをその弟子に教える、という件についての訳注。「ポストトゥルース」のような用語を使っているあたりが、現代の読者に向けたメッセージとなっている。少し言い方を変えると、ヴェーバーのメッセージは、現代の日本においても届けられるべき内容を持っていることを、この訳注は示している。

私自身、ヴェーバーから学んだことのうち、最も重要なことの一つはこのことだったと思っている。なお、もう一つ同じくらい重要なのは「職業としての政治」の方で強調されることになる「距離の感覚」であった。



「仕事としての政治」より

 政治が「導く」ないし「リードする」活動だというのは、あまりに自明だと思われるかもしれない。しかし、ミシェル・フーコー(Michel Foucault)(1926-84年)は、1977-78年度のコレージュ・ド・フランス講義において、古代ギリシアの語彙には基本的に「牧者(berger;Hirte)」のメタファーがないと指摘している。牧者の「導き(conduite;Führung)」(フーコーの訳語では「操行」という訳語が用いられることが多い)は、17世紀末まではほとんど見られず、「キリスト教的司牧が西洋社会に導入した根本的な要素の一つ」だと述べられている(ミシェル・フーコー『安全・領土・人口――コレージュ・ド・フランス講義 1977-1978年度』 高桑和巳訳、筑摩書房、2007年、239頁)。リーダーシップの強弱でしか政治を語れないとすれば、それは政治概念の貧困化ということになるかもしれない。(p.91-92)



講演冒頭の辺りで政治についての概念を規定しようとしている箇所への訳注。ヴェーバーの政治や権力の概念に対して、もう少し現代的な概念を知りながら読むべきだというような訳者からの示唆が感じられる。

なお、リーダーシップの強弱でしか政治を語れないことは政治概念の貧困化だという指摘は、多くの人々のリーダー待望論(願望)とポピュリストの登場という構図が世界的にみられる(ヴェーバーの時代にもこれに似たところがあったと思われる)ことを踏まえてのものであろう。



 では、このシステム全体は、どのような効果を生んだのでしょうか。今日、イギリスの議員は二、三人の閣僚(と少しの一匹狼)を例外として、通常の場合、よく規律化された票以外のなにものでもありません。ドイツの帝国議会では、せめて自分の席の机で私的なメールを片づけることで、お国のために活動しているふりをするのが常でした。この手のジェスチャーは、イギリスでは要求されもしません。議会のメンバーがしなければならないのは投票だけで、党を裏切らなければよいのです。内閣、あるいは野党のリーダーが命令するのに応じて、それをするように院内総務から呼び出されれば、議員のメンバーは顔を出さなければなりません。一人の強力なリーダーがいる場合、全国のコーカス・マシーンに至っては、ほとんど主義をもたず、リーダーの手に完全に掌握されています。したがって、こうして議会の上に君臨するのは、事実上の人民投票的な独裁者です。この独裁者は「マシーン」を介して大衆を自分の後ろに従える。そして、この独裁者にとって、議員などは彼の支配下にある政治的なサラリーマンにすぎなくなります。(p.160-161)



『政治論集』でコメントした箇所と全く同じ個所。つけるべきコメントも基本的に同じ。

訳文について一言述べると、本書は野口雅弘による新しい訳だが、私としては古い訳の方が読んだものが記憶に残るように思う。今回の訳は、言葉の選び方は現代の若者に向けていろいろ考えているように見えるが、読んでみると(少なくとも私にとっては)何となく回りくどいというか、意味内容が頭の中にスッと入ってこない感じがある。講演なんてむしろそんなもんだという見方もあるかも知れないが、こうした種類の本を読むことの意味を考えたとき、やはり著者が考えている意味内容が読者に何らかの形で伝わることが重要であることを考えると、読んですぐ頭に入る方がいい。



ところが、政治家の仕事の聖なる精神に対する罪が始まるのは、もっぱら「なにごとか」にコミットするのではなく、この権力追求がなにごとかに即さず(unsachlich)、純粋に個人的な自己陶酔の対象になるところです。(p.182)



一つ前のエントリーでもこの部分を含む個所を引用しておいた。



 戦争を倫理的に埋葬するのは、実際の問題に即していることと騎士道的な礼節によって、とりわけ品位によってのみ可能です。〔どちらが善で、どちらが悪かという「あれか、これか」を問う〕「倫理」によってではないのです。「倫理」〔による戦争の終結〕では、〔勝者と敗者の〕双方の品位が失われてしまいます。(p.187)



この個所も一つ前のエントリーで引用した。「倫理」に対する注釈の内容が両訳書で異なっている。こちらの解釈の方が素直に理解できるように思う。



「訳者あとがき」より

もちろんウェーバー自身は「ポスト真実(post-truth)」という語を用いているわけではないが、「事実」よりも受け手の感情や好みがより大きな政治的意味を持つような事態は、すでに彼の考察の射程に入っている
 ドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領に選出されたとき、反知性主義のポピュリズムという点で似ているとして、第七代大統領のアンドリュー・ジャクソンが引き合いに出された。ウェーバーが「政治」講演で特に注目するのは、イギリスのバーミンガムから始まった「コーカス・システム」の発展とともに、白人男性の普通選挙権が実現した、いわゆる「ジャクソニアン・デモクラシー」の時代の政治の変容である。大規模で、かつ規律化された「重い」政党組織は、「軽い」風によって動く「世論」に支えられた政治リーダーのパーソナリティへの依存を高めていく。組織化とパーソナル化がともに進んでいくという「官僚制化とカリスマの弁証法」を、彼はこの講演で印象深く描いている。(p.220-221)


ジャクソン時代のアメリカをヴェーバーが見ていたという点は確かに押さえておいた方が良いかも知れない。



いろいろな感想や指摘をもらい、そのいくつかはこの訳書に反映されている。しかし、この本を扱ったゼミでは、あまり話が通じず、かつ議論もうまく展開しないことがしばしばだった。かつてよく読まれた本が次第に読まれなくなるのには、それなりの理由がある。原著者のウェーバーが語りかけている読者は、革命のさなかにいた。そこでは、いずれのイデオロギーも急進化しつつあり、コミューン的な結びつきや「神秘主義」も近くにあった。いま日本でこれを読んでいる若い読者とは大きくかけ離れている。(p.222-223)


かつて読まれた本が読まれなくなるには理由があるのは確かであり、ヴェーバーの本は全体としてその傾向にあるだろう。

ただ、ゼミで話が通じないことの原因は、訳者がここで指摘するようなことが主要な原因ではないと思う。なぜならば、この本を読んできた(かつての)若者たちは、そのほとんどがヴェーバーが語りかけている学生たちとは大きく異なる環境に置かれていたからである。むしろ、話が通じないことの大きな原因は、日本の大学の変容にあると思われる。特に私立大学は現在では学力試験を経ないで推薦で入学する学生が半分近いという現状がある。つまり、学力レベル的に進学する生徒とそうでない生徒をすべて含めて真ん中かそれ以下の生徒たちが大学に進学してくる。例えば、歴史を学んでおらず、古典を読んだこともなく、古典についての解説書すら読んでおらず、政治的あるいは社会的な問題意識が特にあるわけでもない、といった学生がこうした本を読んだとして、本書のような本を短時間で理解できるとは思えない。かつてであれば進学できなかったような学生が大量に進学してくるようになったという大学の状況の変化が話が通じない真の原因はなかろうか。(もちろん、訳者としてそのような「不都合な真実?」をこの場に書くことは憚られるだろうが。)
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