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アヴェスターにはこう書いている?
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フェルナン・ブローデル 『地中海』(その6)
第Ⅲ部 出来事、政治、人間 より

 レパントの勝利そのものが可能であったのは、もっぱら、スペインがこの時ばかりは深入りしたからなのであるが、この点は必ずしも理解されているとは限らない。すべての情勢が幸いにも味方してくれたおかげで、スペインの抱えていたあらゆる困難がとりあえず軽減されたばかりでなく、まさに1570-1571年においては、ありとあらゆる困難が同時に和らいだのであった。・・・(中略)・・・。いずれにせよ、スペインは対外的な重荷をすべて下ろし、突如身軽になっていた。(p.378)



国際関係論ないし外交問題を論じるとき、本書におけるブローデルの見方は有効である。新聞や特に右派(というか、嫌中・嫌韓・嫌北朝鮮とでもいうべき)ブログなどを見ていると、どうも外交関係を一対一の関係であるかのように見ているフシがある。少なくともそうした伝え方が異様に多い。

しかし、外交関係というのは、単なる一対一の関係ではなく、多対多の関係である

今月、安倍首相の従軍慰安婦の強制性を否定するコメントが世界中で話題になったが、彼ら(国粋主義的な思想をもつグループ)のアタマの中には、日本政府の外交にかかわる問題について考えるときでさえ、相手がいない(外交問題になることを外交問題として捉えることができていない)か、相手がいても一つであるかのように発想しているように見える。(後者は新米右派派に典型的に見られる。)

例えば、安倍は「強制性の証拠はない」と米下院だけを見て発言したが、これは相手がいないかのような発言であると言える。彼のような思想信条の人間が、一国の政府の首相という立場で、あのような発言をしたために、国際社会から総スカンをくらったのである。そのため、あわてて「河野談話を継承している」と言いなおさなければならなかった。

私に言わせると、安倍の言動は「バカじゃね?」という感じなのだが、要するに、ブローデルのような外交や国際関係が、そして戦争も、多対多のものであるという発想が希薄のようである。 あのような発言をしたら世界中から、特に少なくともかつて日本の植民地とされた地域の人々から反発を受けることは当然予想しなければならないことであり、安倍の思想信条がどのようなものであれ、総理大臣という立場の人間があのような発言をすることは許されない。

新米右派の人たちも、結局はこの点を軽視していると思われる。アメリカと組んでさえいれば、安全だという発想はまさに多対多であることをよく見ていない。まさに「冷戦時代の発想」と言っていいだろう。というのは、冷戦時代には、擬似的に東と西が一対一であるかのような外観を呈していたからである。

近年は冷戦の相対的に固定的な体制が崩れ、田中宇の言葉で言えば「多極化」が進んでいる。そうした中で、中国と緊張関係を保ち続けることは、中国の経済が成長してきたときに他国と比較して対中のパイプが細くなる可能性が強いという点で非常に不利になると予想すべきであって、もし日本政府が国際社会でのプレゼンスを増そうとするならば、戦略的に誤っている

この多対多の関係が、それに加えて、スモールワールドかつスケールフリーなネットワークであるとすれば、(少なくとも経済はこうした関係になっていることはわかってきている。)ハブとなるノードとのリンクは重みがある方が有利になる、すなわち多くの選択可能な選択肢を握りやすくなる。これは他の勢力を牽制する場合であれ、誘導する場合であれ、当てはまる。(これはもちろん、諸刃の剣でもあるが、はじめからそれを恐れて近づかないのは馬鹿げている。関係を切るのはいつでもできるが、構築するのは時間がかかるのであるから。)

これからネットワークのハブになる(より有力なハブになる)有力候補は、例えばBRICsであり、現にハブであるのは、アメリカやEUの主要国であり、(BRICsとかぶるが)ロシア、中国などである。欧米は低成長ではあるとしても、急速な衰退の兆しはない。日本もハブでありうる力を現時点では持っている。そのために軍事力にいたずらに頼る必要もない。軍事的な攻撃ができるかどうかはさほど関係はない。軍事的な防衛ができれば十分である。(ミサイルに対する防衛はどこもできていない。)

ハブとリンクを保つことがスケールフリーなネットワーク上で栄える鉄則だとすれば、それをいかに確保するかが外交戦略の基本となるはずである。ブローデルのこの歴史書は、そうした「ネットワークの視点」までは行かないにせよ、多対多の関係では相手がどのような状況に置かれているかをしっかり見据えることの重要性を示唆しており、現在の日本にはびこる考え方に対しては重大な批判を含んでいると解釈できる。
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